「幸せになるためには、社会的に成功するための努力をするよりも、やさしい人になる努力をするほうがはるかに有効である。生きることが辛い人は、やさしい人になろうとすることが幸せへの道。しかし、悩んでいる人にはそれがなかなかむずかしい。その努力ができれば、人は幸せになれる。やさしくなければ、世界一の権力を握っても世界一の大金持ちになっても、幸せにはなれない。しかし残念ながら、人は深刻な劣等感を持つと、幸せになりたいという欲求よりも優越したいという欲求のほうが強くなる。【幸せになりたい】という欲求と【優越したい】という欲求の選択に際して、人は【優越したい】という欲求に従う。よく人は、【幸せになりたい】と言う。【私は不幸になりたくない】と言う。しかし、人が幸せになりたいという願いはそれほど強いものではない。実はこのことが、人間社会を正しく理解するためにはどうしても必要なことである。偉大な思想家たちが歴史や社会を見誤ったのはこの点である。自分が生きることが苦しかったのは、やさしさがなかったからだと気づくだけでも先はある。これに気づかなければ、今あなたは断崖絶壁にいる」

著 加藤諦三 やさしい人より一尾抜粋