「悔しいというようなマイナスの感情に動かされてしまう人ほど、自己不在である。つまり傷つきやすい人たちである。自己不在であればあるほど【悔しい】という感情に動かされてしまう。その感情だけになる。後のことは眼に入らなくなる。傷つきやすい人たちは、同時に傷を乗り越えられない人たちである。何をしていても自分を騙した人のことで頭がいっぱいで、何も考えることができない。その時に、やさしい人ほど、その憎らしい人を心の中で断ち切ろうとする。【裏切られた】ということが分かっても、【今、あの人との関係がわかって良かった】と思う。そして、関係を切る方向に生きるエネルギーを持っていく。それが愛着性格者。いつもでも裏切った人を恨んで消耗するのが執着性格者。愛着性格者は、自然に身を任せることができるから、虫の鳴き声を聞いて、【こんな小さなことにとらわれて短い人生を終わっていいのだろうか】と思える。そう思えれば、関係を切る方向に生きるエネルギーを向けられて、時間が経てば元気になる。それに対して、執着性格者は、夏の匂い、草の匂い、それがわからない。草の匂いも風の匂いも関係なく勉強をして、出世していこうとする人が執着性格者である。匂いに酔うことが人間の根を深くすることである。執着性格者は根が浅くて上にばかり伸びているような木である。野の匂い、草加の匂い、風の匂いにつつまれながら一日を過ごすことが、生きる為の根元的な力を与えてくれる。ひんやりした空気の心地よい肌触りを感じて過ごす一日が、困難を乗り越える土台を与えてくれる。林の中で遊んだ一日が、人間としての強さをもたらしてくれる。これらのことが根を張ることなのである」

著 加藤諦三 やさしい人より一部抜粋