「劣等感に苦しんでいると、お世辞を言う人をいい人と思って付き合いだす。お世辞を言った人を急に好きになる。友達であれ、お金であれ、出世であれ、時間をかけないで手に入るものは泡のように消えていく。本当に欲しいものは時間をかけて手に入れるものである。なぜ̪シカがライオンに襲いかかるのか?【動物の中でライオンが一番すごいわね】【あのライオンに勝てるものはないわ】と皆が話しているのを聞いて、自分を知らないシカはライオンに襲いかかる。【あなた、すごい!】と言われたいから。そう言われたくて襲いかかるのは、不安でお調子者のシカである。利口なシカは、サイやヒョウを子分にしてライオンと戦う。準備もしないで、すべてに優越しようとするのは、恐ろしい不安や劣等感があるから。淋しくて、今、この場で皆からチヤホヤされたいから。ボクシングの試合会場で、【誰かこのチャンピオンに挑戦する人はいないですか?】とアナウンスがあって、一度もボクシングをしたことのない病弱な子供がリングに上がっていくようなものである。大会場の観客から【わー】という賞賛が欲しい。それは地獄にいるような淋しい子供である。神経症者は、いつも人からチヤホヤされていたい。でも、ずるい人からチヤホヤされるくらいなら一人の方がいい。神経症者は、携帯に一日電話がかかってこないと不安になる。しかし、ずるい人達からじゃんじゃん電話がかかってくるよりは、誰からも電話がかかってこないほうがいい。こういう人達と付き合うくらいなら、【一人のほうがいい】ということがわかるまでは、ずるい人のカモになり続ける。マイナスよりプラスのほうがいいのはもちろんだが、ゼロでもマイナスよりはいい。裸になってもいいと覚悟を決めた人に、人は向ってこない。もし孤独になったら、それも良い機会である。人間、最後にはひとりになるのだから、【今から練習しておこう】、そう思えばいい。今日スタートしよう。孤独な人は本を読め。不安のしずめ方は別の言い方をすれば【腹のくくり方】である」

著 加藤諦三 不安のしずめ方より一部抜粋