「イソップ物語に次のような話がある。ある人が、オウムを買ってきて家の中で放し飼いにした。オウムは、家の中であちこちにとまり、愉快な歌を家の人に聞かせた。ネコは、それを見て面白くない。【おまえは何者だ、どこから来た】と聞く。オウムは【ご主人が私を買ったのです】と答える。そこで面白くないネコが言う。【来たばかりのくせに、そんな大きな声を出すな。自分はこの家で生まれこの家で育った。それでも鳴くと家の人に怒られる】するとオウムは、【あっちへ行ってくれ。私の声とあなたの声では声が違う】という。ネコが忘れていることは、自分の恵まれた環境である。ネコは家に飼われて幸せなのである。しかし、オウムは、できれば空を飛んでいたい。家の中にいるのはオウムのほうが大変なのに、ネコはそのことに気がついていない。ネコは、【この家で生まれ、この家で育った】幸せを忘れている。人は、それを失うまで、自分の幸せになかなか気がつかないものである。ネコは人間と同じに扱われ幸せなのに、嫉妬で不幸になる。他人が自分と違ったものを持っていると、それで自分が不幸と思う人が多い。オウムは、愉快な歌を家の人に聞かせているけど、幸せかどうかはわからない。楽しいかどうかは分からない」

著 加藤諦三 やさしい人より一部抜粋