「八方美人は八方塞がりになる。八方美人は自分一人では生きていけない。八方美人はその自分の弱さを心の底で知っている。だから誰にも彼にも迎合するのである。弱い人は、眼の前にいる人に迎合してしまう。眼の前にいた人が、ある人に反感を持っているとする。するとその眼の前にいる人の意向に添ったことを言う。例えば眼の前にいる人に迎合して、自分が世話になった恩人の悪口を言う。もちろんその悪口は本音ではない。しかし眼の前にいる人に気に入られることの方が、その人には重要なのである。自分の意思がない。八方美人は八方に迎合する人。あなたが権力者であれ、市井の人であれ、八方美人である限り人生は八方塞がりになる。どんなに権力を握っても、迎合する弱さがある限りずるい人達が周囲にうようよを群がってくる。そして甘い汁を吸い尽くす。そして権力を失った時には皆去っていく。周囲には誰も残らない。利用するだけ利用されて捨てられる。八方塞がりの人生を打開する道は、ただ一つ八方美人を止めること。八方美人の人が八方美人を止めることはかなり難しい。一朝一夕にできるものではない。しかしどんなに辛くてもそれをするしか生き残る道はない。つまり強くなること、自立すること。自立するとは、人を見分けることでもある。ずるい人と誠意のある人を見分けることができるようになった時に、その人は自立したのである。そうなると【あの人】から誉められたい、【あの人】に認められたい、【あの人】には好かれたいという心理になる。誰であっても自分を誉めてくれる人が好きになるということはなくなる。自立するということは愛の選択を始めるということ。自分に利益をもたらす人は誰でも好きになるということはなくなる。【あの人】からは利益を得たくないと思い出す。そして【あんな人】から賞賛されて嬉しがっていた自分を恥ずかしく思うようになる。ずるい人は相手を利用しようとすると相手を誉める。自立していない人は、そのような賞賛であっても嬉しい。とにかく賞賛されれば嬉しい。卑怯な人も誠実な人も関係ない。それが八方美人である」

著 加藤諦三 たくましい人より一部抜粋