「イソップ物語に【旅人と熊】という話がある。友達二人が道を歩いている。そこに、突然熊が現れた。一人は素早く木に登って隠れ、もう一人は、地面に倒れて死んだふりをした。熊はその人に鼻を近づけてかぎ回したが、彼はじっと息を止めていた。熊は死んだ人には決して手を出さないというからそうしたのである。そして熊が去って行ってしまうと、もう一人は木の上から降りてきて【熊があなたの耳の近くで何か言ってたけれども、なんて言っていたの?】と聞く。すると死んだふりをしていた人が、【熊がね、危険な時に助け合わないような友達とは旅行するなよ】と言った、と話す。つまりこの物語はトラブルが起きることによって相手が見えてくるということを言っている。トラブルは嫌なものと思ってるが、トラブルによって本当のことが見えてくる。つまりトラブルでそれぞれの人が自分の本性を現す。平穏な時には見えない相手が見える。世の中にはいろいろなトラブルがある。例えばあなたの周辺で金銭上のトラブルがあったとする。しかしそのトラブルがあったからこそ【あいつは金銭的には信用ができない】とあなたは分かる。そのことが今、分からないで十年してから分かったらあなたはどうなるか。このままトラブルなしで十年してその人に、お金を使いまくられて、その後で責任を逃げられたら、もっとひどいことになる。今トラブルがあったおかげで【あの人は信用できない】とあなたは分かった。世の中では金銭上のトラブルばかりではなく、【あれほどしてあげたのに、その最中に陰ではこんなことをしていた】というようなことがある。そうしたトラブルもある。裏切られたことは辛かったけれども、それも今度の騒動でその人が分かったから、これから先のトラブルは避けられた。ここで裏切られていなければ、この先もっと大きな裏切りにあっていたかもしれない。全てのトラブルは未来の大きなトラブルを避けさせてくれる」

著 加藤諦三 人生の重荷を軽くするヒントより一部抜粋