「ずるい人達とのトラブルを乗り越えたときにその人の人生観はより深くなっている。その煮えくりかえるような悔しい気持ちをじっと我慢した時に、初めてしいたげられて生きてきた人達の気持ちが分かる。強者の横暴を体験し、相手を殴り殺してもまだ気持ちが収まらないほど悔しい。それなのに口で非難することさえできない。どうしても収まらないほど悔しさを感じ、夜も眠れない苦しい日が続く。その苦しい体験をして、弱い立場に立たされたものの気持ちが初めて理解できる。そこで弱者へのやさしさが生まれる。そのやさしさを持った強者がたくましい人。強い立場の者から痛めつけられて、もだえ苦しんだ体験が本当にたくましい人を作る。それまでは机上の理屈だけを言う。複雑な世の中の動きと関係なく正しいか正しくないかを言う。正しいことは実行できると思っている。そして【正しかったらそうすればいいでしょ】というような世間知らずなことを言う。現実の世の中は、正しいことでもできないことはある。合法的なことでもできないことがある。世間知らずで社会的に強い立場の人の言う理屈は、現実の世の中の力の恐ろしさを無視した机上の空論でしかない」

著 加藤諦三 たくましい人より一部抜粋