「よく【自己発見】とか【自分との出会い】とかいうことを聞く。【新しい自分との出会いのために旅に出ます】などという人にもよく出会う。自己発見のためにはいろいろな方法がある。旅に出るのもそのうちのひとつの自己発見の方法であろう。それらの多くの方法の中で【ノーといいたい時にイエスといわない】というのもひとつの大切な方法であると思っている。ノーというべきところでノーといわなければ、自分を発見することはできない。それを小さなこと、一見くだらないことのように軽蔑してやらないことがよくない。例えば図書館で話をしている人がいたとする。【うるさいから止めてください】といいたい時がある。そんな時そんな事したってべつに自分にとってどうということはないと自己喪失している人は思う。しかしこのような小さな行為を通じてこそ、自己を回復していくものである。どのような行為も自分の全体と切り離されているわけではない。しかがって今まで、そのような時に【止めてください】といわなかったのに、はじめて【止めてください】といったとすれば、その小さな変化は弱いながらも自分の全体に影響を与える。【ちょっと話が気になって勉強できないんですが、止めてもらえますか、、、、ありがとう】このような小さな発言が自己形成への小さな第一歩になっていく。ノーといえない人はいつも不満気な顔をして不機嫌である」

著 加藤諦三 一部抜粋