「仕事のできる人というのは、失敗に強い。仕事のできる人というのは、損失に対してクヨクヨ悩まない。会社で仕事のできる人というのは、個人的な損失、例えば何かを買って大損をしたというような体験にも平然としている。例えば土地を買う。ところが、その土地が値下がりしてしまう。株が暴落してしまう。そんな時、普通の人、あるいは執着性格のような人なら、気がおかしくなってしまいそうになる。自分の年収にあたるぐらいの大金を損失したら、頭をかかえて夜も眠れなくなる。ところが仕事のできる人というのは、こんな時でもやはりグッスリ眠れるのである。たしかに誰にとっても自分の年収にあたるぐらいの大金を損した時には、経済的にはこたえるだろう。しかし、損をした場合を心理的にいうと、反応はさまざまである。同じ100万円でも、ある人にとっては大金であり、ある人にとってはそれほど大金でもない。だが、金額的に年収分ということになると、それぞれにとっても、経済的意味は同じくらい大きい。ところが、その損失に直面した時、クヨクヨ悩むかケロリとしているかということになると、人によって驚くほど違う。だいたいにおいて仕事のできる人というのは、そういう時にもすぐに次の目標を立てる。私的な世界で損をしても、そのことが会社の仕事にまで影響しない。なんで俺はこんなことをしているのだ、こんなに一生懸命働いて、給料をもらってそれで損をしていたのでは何のために働いているのか分からないなどと、いつまでもクヨクヨ考えていない。やけ酒を飲んだり、おおげさに嘆いていたりはしない。それは失恋であっても、経済的損失であってもいい、失ったときに人の器量がわかる。損失に耐えられなくてお酒におぼれたりというように、その苦痛を回避しようとして大騒ぎする人は、仕事ができない。仕事のできる人は、その失敗は失敗、その損失は損失として、すぐに次の企画をたてるもの。いつまでも【あー、こんなことしなければよかった、あいつの一言であんなものを買いさえしなければ】と悔恨の情に苦しめられている人間は、仕事のできない人である。そのような失敗に懲りて、もうやめたと消極的になってしまうのも、仕事のできないタイプである」

著 加藤諦三 成功と失敗を分ける心理学より一部抜粋